「流行病か何か?」レルドリンはやわらかく訊ねた。
「ううん」ガリオンはさっきと同じく、単調な声で答えた。「殺されたんだよ」
 レルドリンは息を止めて、目をまるくした。
「夜、ひとりの男が両親の住んでいる村に忍び込んで、家に火をつけたんだ」ガリオンは冷静に話をつづけた。「ぼくのおじいさんがそいつを捕まえようとしたけど、そいつはうまく

逃げたのさ。どうやら、その男はずいぶん昔からぼくの家族の敵らしいんだ」
「もちろん、そのまま放っておくつもりはないんだろう?」レルドリンは聞いた。
「うん」ガリオンは霧の中を見つめたまま、答えた。「十分な年齢になったらすぐにでも、そいつを探し出して、殺すつもりだよ」
「そうこなくっちゃ!」レルドリンはとつぜんガリオンをきつく抱きしめて、叫んだ。「ぼくたちでそいつを見つけて、めちゃめちゃに切り刻んでやろう」
「ぼくたち?」
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「もちろんぼくもいっしょにやるよ」レルドリンは叫んだ。かれが感情にかられてそう言ってるのは明らかだったが、本心から言っているということも明らかだった。かれはガリオン

の手をきつく握った。「本当だよ、ガリオン、きみの両親を殺したやつをきみの足もとにくたばらせるまで、ぼくの気持ちは休まらない」
 この突然の宣言は予想されていたことだった。ガリオンは口をすべらせてしまった自分をひそかに責めた。この件に対するかれの気持ちはしごく個人的なことだったから、顔なき犯

人をさがすのに仲間が必要なのかどうか、自分でもよくわからなかった。けれども、心のどこかでは、たしかに衝動的だが有無を言わさないレルドリンの応援をうれしく感じている。

かれはこの話題を打ち切ることにした。ガリオンも今ではレルドリンのことがよくわかるようになっていたから、この若者がきっと一日に十二回くらいは心からの約束をしてしまうこ

とは察しがついた。あっと言うまに心からの約束をして、あっと言うまに忘れてしまうのだ。
 それから、かれらはくずれた塀のわきで、黒っぽい色のマントにしっかり身を包みながら、別のことを話した。
 昼すこし前、森の中から馬のひづめの音がかすかに聞こえてきた。数分後、霧の中から野生とおぼしき十二頭の馬をしたがえたヘターがあらわれた。長身のアルガー人は丈の短い、

羊毛の裏地をつけた革のケープを着ていた。ブーツには泥がはねあがり、服は旅の汚れが染みついているが、それ以外は馬の上で二週間も過ごしたとはとても思えなかった。
「ガリオン」かれが挨拶のつもりでおごそかに呼びかけると、ガリオンとレルドリンは前に進み出てかれを迎えた。
「ずっと待ってたんだよ」ガリオンはそう言ってからレルドリンを紹介した。「みんなが待ってる場所に案内するよ」
 ヘターはうなずくと、二人の青年を追って廃墟を抜け、ミスター?ウルフと他の者が待っている塔にむかった。「山に雪が降ってたんです」ヘターは弧をえがいて馬をおりながら、弁

解のつもりで手短に言った。「それで少し遅れたんです」かれは剃りあげた頭から頭巾をぬぐと、頭皮に残したひとふさの長い黒髪をさっと振った。
「べつに問題はない」ミスター?ウルフが答えた。「さあ、中に入って火にあたりながら何か食べなさい。話したいこともたくさんあるから」
 ヘターは馬を見た。風雨にさらされた褐色の顔は、まるで何かに精神を集中しているようにうつろだ。どの馬も何かを警戒するような目でかれを見返し、耳を前方にピンと立たせて

いる。やがて馬はきびすを返すと、足下に注意しながら木立の中に消えていった。
「はぐれないでしょうか?」ダーニクは訊ねた。
「ええ、よく言ってきかせましたから」
 ダーニクは不思議そうな顔をしたが、そのままやり過ごした。
 かれらは塔の中に入り、暖炉のそばに腰を落ち着けた。ポルおばさんはかれらのために黒パンとうす黄色のチーズを切り、ダーニクは薪を新たに火にくべた。
「チョ?ハグは氏族の長《おさ》たちに伝言を送りました」ヘターはケープを脱ぎながら報告した。かれは折り曲げ可能なよろいの役目をする、はがねの円板を鋲で打ちつけた、黒い長

袖のなめし革の上着を着ていた。「かれらは〈砦〉に集まって会談することになってます」かれは彫刻の入ったサーベルをはずしてかたわらにおくと、火の近くに座って食べものを口

にした。
 ウルフはうなずいた。「誰かプロルグに向かおうとしている者はおるのか?」
「出発する前にぼくの隊をゴリムの」ヘターは答えた。「もしそれをやり遂げる者がいるとしたら、それはかれらだと思います」
「そう祈るよ」ウルフは言った。「ゴリムはわしの古くからの友人だ。すべてが完了するまでに、かれの助けを必要とすることがきっとあるだろうから」
「あなたがたはウルゴ人の土地が怖くないんですか」レルドリンが礼儀正しく聞いた。「あそこには人肉を食べて生きている怪物がいるって聞いてますけど」
 ヘターは肩をすくめた。「やつらは冬のあいだはほら穴の中にいるんだ。それに、騎馬隊をまるごと襲うほど、勇ましくはない」それからミスター?ウルフのほうを見ると、「南部セ

ンダリアの人がマーゴ人に取り入ってるようですよ。あるいはもうご存知でしたか?」
「残念ながら知らんな。とくに何かをさがしてるような様子はあったかね?」